精神科医としての診察や産業医として面接をする際に、要注意な言葉がいくつかあります。
特に、一般用語でありながら精神医療用語でもある言葉は注意が必要です。
「うつ」「不眠」「パニック」「フラッシュバック」「不安」「原因」「発達障害」など
相談者の言葉がどういった状態や状況を意味しているのか、きちんと時間をかけて確認していくことが、言葉を使って治療をしていく仕事の基本だと思います。
今回はそんな要注意な言葉のうちの一つ「パニック」について、です
|「パニック」をより分けてみる|
「パニック」という言葉には、まず
「一般用語としての『パニック』という心理状態」
「精神症状である『パニック発作』」
「精神疾患である『パニック障害』」
とがあります。
極端な場面では「一般用語としての『パニック』」が起きたので、「私はパニック障害です!」と相談者は説明するわけです。
でも専門家がそんな十把一絡げなことでは良くなるための対応はできないわけで、そこをより分けて参りましょう。
|精神症状である「パニック発作」|
定義の明確なところで「パニック発作」から。
「パニック発作」とは、
突然の息苦しさ、動悸、呼吸困難感、目の前が暗くなっていくような感じ、を覚えて、
このままおかしくなってしまうのではないか、死んでしまうのではないか、気がくるってしまうのではないか、という感覚を持つような状態です。
うずくまって動けなくなる人もいれば、過呼吸になる人もいます。
救急搬送される人もいますが、身体的には全く問題はありません。
この、
「突然の苦しさ」
「このままでは大変なことになりそうだという絶望的な気持ち」
「身体的には無問題」
が揃っている症状が精神症状である「パニック発作」です。
「パニック発作」は後述する「パニック障害」の主症状ですが、「うつ病」でも起こりますし、一時的な衰弱状態など、様々な精神疾患で起こります。
「発熱」や「腹痛」のようないろいろな病気で起きてくる症状だと思ってください。
|精神疾患である「パニック障害」|
「パニック発作」が定義づけされたところで、「パニック障害」に行きましょう。
「パニック障害」は、「パニック発作」と「予期不安」「広場恐怖」で定義される精神疾患です。「パニック障害」は、かつては「パニック症候群」などと呼ばれました。
今は操作的診断では「パニック症」なのかな。
「パニック発作」が起きた後に、「またパニック発作が起きるのではないか」「起きたときにどうしよう」と悩み、人込みを避けたり、出口のないエレベーターやバスや電車を利用することを怖がったり、避けたりするようになること、それにより生活に支障が出ること、
これが「予期不安」と「広場恐怖」です。
「パニック障害」はうつ病などと合併することもありますが、独立した精神障害です。
不安に効く抗うつ薬などを利用して治療していきます。
飲酒や生活習慣が主な要因として起きている場合には、そのことを変化させる必要があります。
|一般用語としての「パニック」という心理状態|
相談者が「『パニック』になるんです」と語った時、
私は<その方によっていろいろな「パニック」があるので、別の言葉で、もう少し詳しく教えていただけますか?>とお訪ねします。
・頭が真っ白になって、話す言葉が出てこなくなった、動けなくなった
・緊張してどうしたらよいかわからなくなってしまった
・急なことに戸惑い、大声を出した、または泣いてしまった
・その場から逃げ出していなくなってしまった
・過呼吸になった
といったところが良くある言い換えでしょうか。
定義された「パニック発作」以外はすべて一般用語「パニック」です。
相談者が「一般用語としての『パニック』」が起きたので、「私はパニック障害です!」
とおっしゃる場合には、<それは医学診断としては「パニック障害」とは違うようですね>と説明して、その方の「パニック」がどういったきっかけで起きてきているのか、といった対応に移っていきます。
今回は相談者から出たら要注意な言葉「パニック」について、でした。
この項ここまで。